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局所麻酔中毒の症状と対処法を学ぼう!【経験談あり】

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今日は局所麻酔中毒について詳しく勉強しましょう✨

実際に起こった時に、症状や対処法の知識をちゃんと持っていることは本当に重要です。

知識がなくて困った苦い過去も書いてますので、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

局所麻酔中毒はなぜ起こるの?

局所麻酔薬が血液中に吸収されることにより、血中濃度が上昇して中毒域を超えた時に起こる反応です。

アバウトな言い方ですが、イオンチャネルとかタンパク結合率とか言い出したら混乱するので省略。

動脈もしくは静脈への直接投与や、血管外組織から吸収されることでも起こります。

局所麻酔中毒の発生頻度

硬膜外ブロックは10,000 症例あたり 1.2 ~ 11 症例

末梢神経ブロックはおよそ 10,000 人あたり 2.5 症例と報告されています。

どちらも血管内に意図せず注入するリスクがありますが、末梢神経ブロックは局所麻酔の量も多いので、緩徐な吸収にも注意が必要です。

局所麻酔薬の代謝

局所麻酔薬は、アミド型は肝臓で、エステル型は血漿コリンエステラーゼで分解されます。

オペ室で使う薬はアミド型ばかりです。

リドカイン(キシロカイン®️)、ロピバカイン(アナペイン®️)、ブピバカイン(マーカイン®️)、レボブピバカイン(ポプスカイン®️)、メピバカイン(カルボカイン®️)など。

これらの薬剤は、肝機能が代謝に影響を与えます。

肝障害のある患者さんや、心不全等で心拍出量が減少している場合(肝血流量低下)、代謝酵素活性の低い乳児などでは中毒症状を生じやすくなるので注意しましょう。

エステル型はテトラカインなどです。(使用頻度が低いので省略)

局所麻酔中毒を予防するためには

局所麻酔の量を少なくする【極量とは】

局所麻酔には極量が定められています。

極量は「局所麻酔中毒の危険が高いから使ってはいけない」という意味で、極量までは使えるっていうわけではないので注意しましょう。

リドカイン 5mg/kg(アドレナリン含有時7mg/kg
メピバカイン 5mg/kg
ブピバカイン 3mg/kg
ロピバカイン 3mg/kg
レボブピバカイン 3mg/kg


少量分割投与

投与速度が速く高圧をかけて一気に注入すると、局所麻酔中毒のリスクが高くなります。

少量(3-5 mL)ずつ、分割して投与することが推奨されています。

局所麻酔薬中毒の発症リスクが少ない局所麻酔薬を使う

ブピバカインやメピバカインよりも、ロピバカインやレボブピバカインの方が心毒性が弱く中毒症状は出にくいと言われています。

穿刺後の吸引テストとテストドーズ

穿刺した際やカテーテルからの吸引テストを行い、血管内に局所麻酔薬を投与していないかを確認しながら投与するようにします。

ただし、吸引テストをすれば確実に血管内投与が避けられるわけではなく、
持続硬膜外カテーテル挿入時に吸引テストで血液の逆流を認めなかったにもかかわらず、局所麻酔薬の血管内投与が発生したことが報告されています。


テストドーズ(試験投与)で少量のアドレナリン含有の局所麻酔薬を投与することで、血管内への誤った投与ではないか確認することができます。

血管内に入れば脈も血圧も上がります。

ただしβ遮断薬内服中だったり高齢者や鎮静中は、大きな変化が見られない場合もあります。

局所麻酔中毒の症状は?

症状の経過

局所麻酔薬の血中濃度の上昇により、まず中枢神経症が起こります。

舌や口のしびれ感、多弁、呂律困難、めまい、ふらつきから始まり、興奮から全身の痙攣を生じます。


初期の神経症状に伴い、高血圧、頻脈、心室性期外収縮が起こります。

心電図上ではPR延長とQRS幅の増大が特徴です。

その後、洞性徐脈、伝導障害、低血圧、循環虚脱、心静止などの抑制徴候となり

意識消失、呼吸停止となります。


血管内に局所麻酔薬を直接注入した場合は、急激に症状が生じます。
頸動脈への直接注入の場合は直後に痙攣を起こします。


大事なところに黄色のマーカーつけたらほとんど黄色になりました(笑)

局所麻酔中毒と他の原因との鑑別

別の原因で似た症状が起こることもあるので注意しましょう。

血管収縮薬への反応⇒頻脈、高血圧、頭痛、不安感

迷走神経反射⇒急激な徐脈、低血圧、蒼白、失神

アレルギーアナフィラキシー(低血圧、気管支痙攣、浮腫)

高位脊髄くも膜下麻酔、高位硬膜外麻酔⇒徐々に発現する徐脈、低血圧、呼吸停止

併発症⇒喘息、脳卒中心筋梗塞など

鎮静薬使用ベンゾジアゼピン系の脱抑制による多弁、呂律困難

過量投与による症状⇒傾眠、意識消失、呼吸停止

発症までの時間

局所麻酔薬中毒の発症時間は様々ですが、半数の症例では投与後 50 秒以内、また3/4の症例では投与後 5 分以内に症状が発現しています。

血管内への直接注入か組織からの移行かで異なりますね。


持続注入の場合は、開始後数日を要する場合もあります。

単回投与の場合でも投与後 15 分以上経ってから発症することもあるので、大量に使用した場合は少なくとも 30 分間は観察することが必要です。


症状に応じた対処法

まずは第一に応援を呼びましょう。

オペ室では基本的に生体モニターはついていると思いますが、ない場合はすぐにつけましょう。

中枢神経症状が出た場合、100%酸素投与、必要があれば挿管し呼吸補助を行い、ジアゼパムセルシン®️)を投与(5~10mg)します。


中枢神経症状に続いて循環虚脱を生じます。

循環虚脱を生じる血中濃度は痙攣を起こす濃度の2~4倍です。

さらに高濃度になると心停止に至ります。

標準的な手順で蘇生を行い、人工心肺の使用も考慮します。

脂肪乳剤が有効

重度の低血圧や不整脈などの循環虚脱に至った場合は、呼吸補助と循環補助を行いながら脂肪乳剤投与を行います。

脂肪乳剤が血漿中に分布し,脂溶性の高い局所麻酔薬と結合することによって有効血中濃度を下げると言われています。


プロポフォールは脂肪乳剤ですが、濃度も低く心抑制作用があるため治療としては使用できません。

20%脂肪乳剤(イントラリポス®️)を使用します。

オペ室に常備されていなければ緊急時薬局に取り寄せになるので、職場の薬剤庫を確認してみてくださいね。


ちなみに私の職場は常備されていません。滅多に使わないですしね

ちなみにのちなみに、ダントロレン(悪性高熱の治療薬)も常備されておらず薬局から取り寄せなければならず、以前疑いで取り寄せた時20分ほどかかりました。
それはさすがにどうなのかと思って意見したのですが未だに体制は変わらず…😱



覚える必要はないのですが、流れを知るために脂肪乳剤の投与方法を書いておきますね。


◎脂肪乳剤の投与方法

1)1.5 mL/kgを約 1 分かけて投与。その後 0.25 mL/kg/minで持続投与開始

2)5 分後、循環の改善が得られなければ再度 1.5 mL/kgを投与するとともに持続投与量を 2 倍の 0.5 mL/kg/minに上昇。さらに 5 分後に再度 1.5 mL/kgを投与(bolus 投与は 3 回が限度)

3)循環の回復・安定後もさらに 10 分間は脂肪乳剤の投与を継続すること

4)多くの報告で総投与量 10 mL/kg 以下で蘇生効果が報告されており、最大投与量の目安は 12 mL/kg


過去問① 局所麻酔中毒の症状

では最後に周術期管理チーム認定試験の過去問を2問解いて終わりましょう。


********

局所麻酔薬中毒の症状でないのはどれか。

a 水疱
b 興奮
c 多弁
d けいれん
e 舌のしびれ

********




正解:a


過去問② 局所麻酔薬の極量

********

局所麻酔薬とその極量の組み合わせで正しいのはどれか。(2つ選択)

(1)ロピバカイン………………3 mg/kg
(2)リドカイン…………………5 mg/kg
(3)レボブピバカイン…………5 mg/kg
(4)ブピバカイン………………5 mg/kg
(5)テトラカイン………………10 mg/kg

********



正解:12



おわりに【自分の体験談】

私は局所麻酔中毒を一度だけ見たことがあります。

もう昔すぎて記憶が曖昧なのですが、確か硬膜外麻酔のテストドーズが終わり刺入部にテープを貼り
カテーテルをテープで固定しようとした時に患者さんが痙攣して意識が無くなりました。

テストドーズしてから一分後くらいです。


その頃の私は局所麻酔中毒の症状もよくわかっていなくて、きっと痙攣の前に何かしらの中枢神経症状があったんだと思いますが全く気付きませんでした。

もしかして局所麻酔中毒かもとは思いましたが、患者さんに声をかけ続けながらとにかくベッドから落ちないように必死で支えるので精一杯。

意識消失した人ってはんぱなく重いですよ!

周りの人が支えるのを手伝ってくれて、慌てて仰向けに戻して即挿管って感じでした。


その時のバイタルとか使用していた薬剤とか今ならめっちゃ興味深く見るんですけど、当時1年目だったので無事で良かった、上司に報告しなきゃとしか思わなかったのでその辺りの記憶はゼロです…

参考にならなくてすみません(笑)


でもその貴重な経験をさせてもらえたことで、現在後輩指導に役に立っています。

たまに硬膜外麻酔の介助で、患者さんの体を支えるのではなく手を乗せているだけ、なんなら片手だけみたいなスタッフを見かけますが、もうめっちゃヒヤヒヤします(ベテランほどやりがちだったりする…)


局所麻酔中毒に限らず、迷走神経反射で意識消失とか患者さんが動いたりとかで転落のリスクは高いですから(動くことでの神経損傷のリスクも含め)
皆さんも滅多に無い事だからと思わずに注意して介助しましょうね。

今日学んだ局所麻酔の症状と対処法もぜひ覚えておいてください。





今日はここまでー✨







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